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促進耐候性試験

屋外暴露試験により得られる試料への耐久性 (耐候性) 評価よりも、 より迅速な評価が必要な場合には、 一般的に人工光源を使用した装置が劣化促進のために使用されます。 これら光源には、フィルタ付ロングアーク・キセノンランプ、 蛍光ランプ、 メタルハライドランプ、 及びカーボンア-クランプが含まれ、 まれに水銀ランプやタングステンランプが使用されます。 これらの促進耐候性試験は、人工耐候性試験とも呼ばれています。 自然暴露試験よりも促進耐候性試験が選ばれるのにはいくつかの理由があります。 主としてこの促進耐候性試験は、自然現象、 又は太陽放射以上の放射照度で、自然の昼/夜サイクル、季節変動、及び気候条件を中断することなく、連続して実施するものです。また、温度、熱サイクル、湿度、水への暴露も最大限度に、極めて現実に即した方法で、実際のストレスレベルで操作することができます。試料は計画した実用環境条件に対応する、又はそれを超えるスペクトルエネルギーでの暴露が可能です。しかし、その場合、十分な訓練を積み、自然の法則に反した劣化メカニズムが起きないよう注意を払わなければなりません。 天候は本質的に制御できない上に、可変性のある現象ですが、実験室試験では必要に応じて、 条件を操作し、促進させる能力を備えており、再現性と反復性が得られるという利点があります。また、様々な自然暴露要因に対する材料の特定反応を検査するための研究が行えます。それぞれの耐候性への要因は、独立して制御ができます。 実験者は、各光源に固有の利点があることを知っていなければなりません。 暴露材料が受ける放射エネルギーは、最も重要と考えられており、 私たちはこれら光源の質に注目し、 各光源を自然太陽光とどのように近接させるか、 また、 他の屋外要因とどのようシミュレートさせられることができるか研究をしております。

  反復性と再現性
促進耐候性試験装置の実行能力について討議する際、 一般的に使われている言葉で常に浮上してくる二つの用語があります。 その一つは反復性で、この用語は1台の耐候性試験装置が試験結果の写しを作成する能力を意味します。 他の一つは再現性で、 この用語は数台の耐候性試験装置が同時に同じ試験を実施したとき、 それぞれの装置が試験結果の写しを作成する能力を意味します。全ての耐候性試験装置メーカーが自社の装置を反復性、 再現性のあるものにしようとすることは当然です。 どのような装置であっても、 ある程度の可変性はあります。 しかも、 そこには 「再現不能試験」 の原因となる他のいくつかの要因があります。 それらの要因とは、 不適切なキャリブレーション、 及び/又は、操作上の問題、水スプレーの可変性、 装置のメインテナンス、 試料そのものの可変性、試料の特性変化を測定するために使用される評価装置の可変性、 不注意な試料の取扱いと不注意な試料の準備が含まれます。



1.キセノンアーク装置

キセノン試験機
キセノテスト 150(XENOTEST 150) 1954年製
  キセノンアークランプを使用した最初の耐候性試験装置 (キセノテスト® 150)は 、1954年に開発されました。 キセノン・ロングアークからの光源は、 適切に処置された場合、 他のどの光源よりも、 より近接したUV(紫外線)光及び可視光太陽放射をシミュレートします。キセノンアークは石英管内にガスを封止した精密な放電ランプです。 分光分布は、太陽放射をシミュレートさせるためにフィルタを使用して変更します。 この光源は、試験材料を自然太陽光に暴露する時と酷似した光源として一般に広く一好まれています。 キセノンアーク装置は、繊維、 ポリマー、 塗料、 自動車業界に広く利用されております。


キセノンアークの開発過程で、 水冷式空冷式の二つのシステムが出現しました。これら二つの冷却方式は、分光出力への影響は全く無視できるものでしたが、 全体的デザインと光学フィルタシステムに対する影響がありました。 アトラス・Ciシリーズは は水冷式キセノンアークを使用しています。 キセノテスト220(Atlas XENOTEST 220)、及び卓上型キセノン促進暴露装置のサンテストXLS+II は空冷式キセノンランプを使用しています。


水冷式キセノン装置

キセノン試験機Ciシリーズ
キセノン試験機 Ciシリーズ


空冷式キセノン装置
空冷式キセノン装置 サンテストプラス
サンテストXLS+II キセノン試験機
空冷式キセノン装置 キセノテスト220
キセノテスト220 キセノン試験機

  ランプの冷却は試験結果に影響を及ぼすか?
太陽光に近似したキセノンランプは光を放射するだけでなく、 大量の熱エネルギーも放出します。 サンプルの温度を上げるだけでなく、 フィルタやランプ、周辺の構成部品を過熱し、 損傷、 劣化させるので、これを避けるためには冷却が必要となります。自動車のエンジンが水冷、 又は空冷によって冷却されるように、 試験装置も両方の技術が使われています。 それぞれ異なるタイプのキセノンランプは、要求される条件に応じて使用されています。 (Ci シリーズ・ウエザオメータのような) 水冷を採用している装置は一般的に “水冷式キセノン装置” と呼ばれています。 サンテスト (SUNTEST) とキセノテスト・アルファ(XENOTEST Alpha) は、空冷式の一例です。 ランプ冷却のテクノロジーはUV (紫外) 光やVIS (可視) 光の分光分布、 又は放射エネルギーの立上り波長に影響を与えることはありません。 もし、 (適切なフィルタシステムを使った) 分光分布とサンプルレベル上の放射照度がまったく等しくなれば、 ランプ冷却方式は試験結果に影響を与えません。



 Ci5000 ウエザオメータ® と3段ラック

Ci5000 ウエザオメータ®  と3段ラック

耐候性試験装置の設計により、 試料は垂直、 又は水平位置で暴露されます。 大型 (大容量) 装置については、 二段式、 及び三段式傾斜型試料ラックが全サンプルに均一な放射照度を提供します。 サンプルレベルでの放射照度、 温度及び湿度、 また、スプレーのような追加機能が要求される場合は、 より良い均一性が得られるように、 ラック全体がキセノンランプの周りを回転します。 キセノンランプは石英管で封止されています。 キセノンランプの分光出力は、 すでに太陽放射分光分布のUV(紫外線)光及び可視光波長範囲で近似していますが、 太陽放射のカットオン波長以下の放射と赤外線量とをかなり含んでいます。 このため、 各キセノンランプは光学フィルタシステムで囲まれています。 フィルタシステムのデザインとフィルタのタイプは、キセノンランプによって決まります。 水冷式キセノンランプは二つの円筒形光学フィルタに囲まれています。 冷却水はランプと内側フィルタ、 内側フィルタと外側フィルタの間を流れます。 水は冷却機能に加えて、好ましくない赤外放射をも多少吸収します。また、水は 1200nmを超える放射のほとんどを吸収します。1200nm を超える放射を試料が受けても、一般的に試料にとっては温度が上昇しても支障のない許容範囲の温度です。 更に多くの赤外放射も赤外吸収/反射フィルタで除去できます。 放射システムを水平に取付けた卓上型を除いた他の装置は、1本、 あるいはそれ以上の空冷式キセノンランプが取付けられています。 それらのランプは、 板状ガラスフィルタで構成したランタンと外側円筒形フィルタで囲まれています。 ランプとフィルタは空気流で冷却されます。

水冷式キセノンランプの概要図、キセノンランプ、内側フィルタ、外側フィルタ  キセノンランプ

これらフィルタは、希望する様々な自然暴露条件と特殊試験条件をシミュレートするための分光分布を得るのに有効です。タイプの異なる2枚の円筒形ガラスフィルタを水冷システムとして組み合わせることで、 異なる分光分布を作り出すことができます。 これら水冷式キセノン装置用円筒形フィルタとして利用できるものは、石英・…Quartz、 ボロシリケート (ほう珪酸) ガラス・…borosilicate glass、ハイボレート・ボロシリケート (高ほう酸塩・ほう珪酸) ガラス、タイプ S・…high borate borosilicate Type-S、ソーダライム (ソーダ石灰) ガラス・…soda lime glass、 及び赤外吸収コーティング (CIRA) 石英ガラス・…Coated InfraRed Absorbing (CIRA) quartz が含まれます (下図、”アトラス水冷式キセノンフィルタの組合せ”参照)。 更に、 様々な種類の板状フィルタを保持できる特別なランタンを使用して、 変化に富んだ広範囲なフィルタの組み合わせが可能となります。 空冷式キセノテスト® (XENOTEST®) 装置はキセノクロム® 300、又は 320 (Xenochrome® 300 or 320) と呼ばれる干渉フィルタと他の特定の吸収フィルタを、 フィルタランタンで特殊石英 (サプラックス、 Supraux) フィルタと組み合わせます。 空冷式サンテスト(SUNTEST)装置は別として、製薬試験や化粧品試験用特殊フィルタも使用できます (下図” アトラス空冷式キセノンフィルタの組合せ ”参照)。UV領域及び250から800nmにおける最も一般的なキセノンフィルタの組み合わせとそれらの分光分布を下のグラフ”太陽光と比較した各種ガラスフィルタの分光分布”に示してあります。

 

アトラス空冷式キセノンフィルタの組合せ


 太陽光と比較した各種ガラスフィルタの分光分布

太陽光とキセノクロム 300フィルタの比較
ガラス越し太陽光と比較したキセノクロム 320 フィルタ

太陽光と比較した石英/タイプS ボロシリケートフィルタ
太陽光と比較したコーティング赤外吸収 (CIRA) 石英フィルタ/ソーダライムフィルタ


今日のキセノン試験装置は、光学フィルタにより分光分布と放射照度の両方を制御することができます。 放射露光量はマイクロプロセッサで制御されます。水冷式耐候性試験装置は独特の方法、 非常に狭い波長帯域である 340nm、 又は 420nmで コントロールします。 キセノンランプからの光は石英のライトロッド で誘導され、 狭帯域干渉フィルタと呼ばれる装置でろ過されます。 光検出器が電力調整器に信号を送り、ランプ電力の昇降を行います (図 "放射照度制御 -水冷式装置" 参照)。 空冷式耐候性試験装置は、 放射照度及びブラックスタンダードパネル複合センサーであるキセノセンシブ(Xenosensiv)を使い、 独特の方法で、 広帯域UV放射照度 (300 ~ 400nm)をサンプルレベルで直接コントロールします (図 "放射照度制御 -空冷式装置" 参照)。放射照度測定装置は ISO 9370,プラスチックス ━ 耐候性試験における放射露光量の機器測定 ━ 一般的指導及び基本的試験法 に適合しています。 キセノン装置の放射照度は、自然状態のレベル、 又は、促進を行うためレベルを上げた状態で制御することができます。

放射照度制御 -空冷式装置

放射照度制御 -空冷式装置
放射照度制御 -水冷式装置

放射照度制御 -水冷式装置


空冷式、 水冷式のいずれの装置でも暴露される試料はキセノンランプからの全波長の放射を受けます。  
     
キセノンランプからの影響    


  狭帯域対広帯域制御
材料の劣化は主にUV(紫外線)及びVIS (可視光) 放射の効果によって起ります。 そのため、 試験法では、UV領域内 (例えば、 340nmにおいて0.55W/m2) の放射照度か、 あるいは、 UV [紫外線] 又はVIS (可視光) 領域内(例えば、 300~400nm間での50 W/m2) の一定波長での分光放射を規定しています。 いくつかの規格では両方の数値を載せています。 これら二つの異なる概念は、主に歴史的な理由があり、今日でも使用されています。 ある試験装置装置は広帯域測定を採用し、 ある装置では、狭帯域測定と狭帯域放射照度の制御方式を採用しています。 いずれのテクノロジーも技術的、また経済的な面では同等です。 もし、 ランプ/フィルタシステムの分光分布が分かっていれば、 広帯域と狭帯域の値は相互に換算できます。 装置メーカーとしての当社は個々のケースについての情報をユーザーに提供できます。



放射照度の制御に加えて、 温度と湿度を広範囲に調整及び制御する、 大型 (大容量) の水冷式、空冷式装置も提供しております。 試験槽の温湿度はダンパとヒーターシステムのデジタル比例制御により厳格に維持されます。 ブロワー速度は、 自動又は手動調節で、試験槽とブラックパネル (又はブラックスタンダード) の温度を同時に、 又は単独で制御します 下図”キセノンアーク装置の温湿度制御”参照)。超音波噴霧システムにより、 いろいろな湿度レベルが実現できます。 また、 これらの装置は、試験片に水スプレー、水の凝縮の形成、 浸漬(卓上型ユニットの場合)機能も備えております。 ライト (明) サイクル及びダーク (暗) サイクルもプログラムできます。

 キセノンアーク装置の温湿度制御
キセノンアーク装置の温湿度制御

  試料スプレーに高精製水を使用する理由
時折、 装置内の腐食を避ける必要から、 試料スプレーには精製水を使用することが言われますが、 それが最も重要な理由ではありません。 超純水が必要とされるのはクリアで、 かつ、反復性の得られる試験条件を確保するためです。 更に説明しますと、 水のカチオン、 アニオン、 有機物、 及びシリカを適切に処理しないと、暴露試料にスポット (斑点) やしみが生じます。 それを防止するために、 スプレーシステムの水としては固形分が最高1μg/g以下、シリカが 0.2μg/g 以下の使用を強く勧告します。 希望する純度に到達させるには、 通常、 蒸留水、 又は脱イオン水と逆浸透膜法が用いられます。



  ブラックスタンダードとブラックパネル温度計とでは、どちらが良いか?
放射照度に加えて、 サンプルの表面温度は耐候性試験における最も決定的な要因となります。 実サンプル温度の実測定は非常に費用がかかります。 技術的に難しく、 測定誤差の取扱いには慎重を要します。そのため、 サンプル表面温度は、標準化した金属パネルの温度を測定することで特性化されます。 黒色塗装を施した金属パネルは、試料の最高表面温度を表します。 歴史的な理由から、 二つの異なったブラックパネル温度計(BPT) が使われています。 断熱されたプラスチックベースプレート (台板) 上に取付けられたブラックパネルは、主にヨーロッパ諸国と ISO (国際標準化機構) で使用され、 このパネルはブラックスタンダード温度計 (BST) と呼ばれています。 断熱されていないタイプ (BPT) のものは ASTM に導入されました。 暴露条件によっては、 BST で表示される温度は、 BPT よりも高い値を表示します。 いずれのタイプも利点と不利な点があります。 BST と BPT といった異なるタイプの物が使用できるため、 試験報告書には、いずれのタイプが使われたか、 常に明記する必要があります。



2.紫外線蛍光ランプ装置



紫外線蛍光ランプは、 機械的特性及び電気的特性が住居用や商業用光源として使用されているランプと似ていますが、 固有の分光分布を待たせて開発されたものです。 この光源をアトラス UV Test 紫外線蛍光ランプ/湿潤ウエザリング装置に組み込みます。 この装置は、ライト/ダーク (明/暗) サイクル、 温度、 凝縮湿度 、及び放射照度を変えて試験を行うことができます。 その機能的な設計と使用方法については 、ISO 4892-3,プラスチックス ー 実験室光源への暴露方法 ー 紫外線蛍光ランプ、 ISO 11507, 塗料とワニス- 人工ウエザリングへの塗料コーティング材の暴露 - 紫外線蛍光ランプ及び水への暴露、及び ASTM G154, 非金属材料の紫外線暴露に関して、 特に紫外線蛍光灯装置による標準試験方法 の管理下に置かれます。 これら独特な分光特性を持つ紫外線蛍光ランプには、 いくつかの異なるタイプがあります。 313nm周辺にピークを持つ紫外線蛍光ランプ UV-B (F40 及び UVB-313) は280nm と360nm 間にほぼ全エネルギーを集中させています。 自然太陽光に存在する波長よりも更に短い波長が大きな割合を占めています。360nm 以上の長波長には、放射がほとんどありません。 屋外暴露とUV-B ランプを使用した実験室促進試験との間には、 材料の安定性ランキングでは逆転現象が起きたことが頻繁に報告されています。 この逆転現象は、大量の短波長 UV(紫外線)と 長波長UV(紫外線) 及び可視光放射の不足により、 劣化メカニズムが著しく異なることによるものです。 UV-A ランプと呼ばれるブラックライト蛍光灯は、 そのピーク放射は (例えば UVA-340 及び UVA-351のように) 340nm から 370nm の間にあります。 1987年に開発されたUVA-340 ランプは、325nm 以下の直達日射の短波長放射をシミュレートします。


紫外線蛍光ランプ装置


UV-Aランプは、自然太陽光の立上り波長以下を放射することはありません。 屋外暴露試験との相関性は幾分か改善されますが、 試験時間はUV-B ランプよりも長くかかります。しかしながら、 蛍光ランプを使用した試験は、広く実施されていることに注目すべきです。 これらの試験は、一定条件下での材料相互の相対的ランキング (順位) 比較に有効ですが、 性能寿命時間、 屋外暴露との相関性に関する試験には有効ではありません。 UV ランプは、試料の全体的な系統化を行う中で人工的な過酷な暴露を行い、 誤りをチェックするようなスクリーニング試験に使用するのが最適です。




一般に紫外線蛍光ランプ装置は、 (消灯期間中に) 結露を作り出すために湿潤サイクルを行います (下図 ”紫外線蛍光ランプ装置の湿潤サイクル” 参照)。 試料表面は、熱、 空気と水蒸気の飽和混合物に暴露されます。 試験槽内の相対湿度はダークサイクル中には、約 100% になります。 パネルの裏面はパネル温度を露点以下に下げる室温に暴露され、 暴露表面に凝縮 (結露) を引き起こします。 紫外線サイクルと湿潤サイクルの順序と時間間隔はプログラムでき、自動化できます。 同様に、 紫外線サイクル及び湿潤サイクル中の温度も (制限範囲内で) 制御できます。 材料試験に紫外線蛍光ランプが広く使用されていますが、 それらの限界についての知識があれば、試験装置の機能を発揮させるのに十分役に立ちます。 今日まで、 最も普及した蛍光ランプといえば、 UV-Bランプでしたが、 材料の屋外暴露での性能を正確に予測するには成績が悪く、使用されることが少なくなってしまいました。 UVA-340光源は300nmと400nm 間で地上太陽光スペクトルとの良い相関が提供され、 より効果的に機能する光源とされていましたが、 その後、可視部と赤外部で実質的に出力がなく、 非常に不十分な光源であることが分かりました。 本来、 試料は、太陽光やキセノン光のような全スペクトル光源に暴露されるべきところを、 それとは別に、 色の異なる試料を同じ表面温度となるように暴露することができ、 UVA-340 の不十分さが逆に重要となりました。 すでに見てきたように、 温度は劣化速度と劣化過程に影響を及ぼします。 紫外線蛍光ランプ試験装置のユーザーによっては、 装置による湿潤が、できるだけ自然の結露に近接したシミュレーションを行うことを望んでいます。 また、 他のユーザーは、この湿潤水の温度は材料が何であれ、 自然条件の材料よりも高温となっていて、 材料の表面に非現実的なウォータースポットが生じることを述べています。

 紫外線蛍光ランプ装置の湿潤サイクル
紫外線蛍光ランプ装置の湿潤サイクル


  紫外線蛍光ランプ試験装置に暴露した試料の温度


自然暴露で見られる様々な色による温度差は、 特にスペクトルの赤外領域における放射エネルギーの吸収度合いの違いによって起ります。 人工促進試験において、 この赤外線を放射する装置だけが類似した温度差を再現します。 3M 社がウエザリング教育センター (Weathering Resource Center) で行った研究では、7個の異なった着色試料を屋外と数種類の人工装置に暴露しました。 右側のグラフは紫外線蛍光灯試験装置では温度差がないことを図示しています (それ以外の装置では温度差が見られます)。 このような事実があるにもかかわらず、 紫外線蛍光ランプ試験装置は人工的試験にとっては有用で、 模範的な装置として存在します。 その理由として、 UVA-340蛍光ランプが短波長UV(紫外線)領域で自然の太陽光と非常に良く近似しているからです。

カラーパネルの温度

注: 紫外線蛍光ランプ装置のブラックパネル温度は、試験槽内の空気を加熱して得られます。 このように 全試料が、色とは無関係に均一な温度になります。

アメリカ材料試験協会 (ASTM、 フィラデルフィア) 1994 年発行、 特別技術刊行書(ASTM  STP)1202 号、Fisher, R. M. 及び Ketola, W.D. 共著、Warren D.Ketola 及び Douglas Grossman編集「有機材料の促進及び屋外暴露による耐久性、“屋外暴露と人工暴露における材料の表面温度”」



3.メタルハライドランプ・システム



自動車メーカーやサプライヤーは、新しいテクノロジーや新しい試験研究に対する実験を続けております。 このことは、 インストルメントパネル (計器板) 、 ドア・アッセンブリ、 自動車バンパーシステムのような大型構成品にかかるストレスの影響度を試験したり、 いくつかの要素、 材料で成り立っている大型成形部品の暴露試験を行う、といった難問への取り組みで示されています。 これら難問への取り組みに対して、 自然暴露では前述のIP/DP Box® がありますが、大型構成部品(又は自動車丸ごと)を人工的に暴露するのに実用的に利用できる光源があります。

20年以上前から一般的に認められた放射源で、“全スペクトル”太陽シミュレーションを行える特殊メタルハライドランプ (例えば、ソーラーモジュール 4000[SolarModul 4000])があります。主に自動車メーカーやサプライヤーに使用されているこのシステムは、 その重要な地位を獲得しています。また、このシステムは、主に次の二項目に適用されます。 ・各種材料で構成されたコンポーネント(構成部品) の老化試験 (ウエザリング及び熱応力)。 ・エアーコンディショニング (空調) システムの研究開発のための太陽熱負荷試験。

MHG 対 太陽光の比較グラフ


  メタルハライドランプによる処理法
メタルハライドランプには、(例えば、 タングステンハロゲンランプのような) 熱放射とは異なり、 連続スペクトルが ありません。 このランプは、個々に独立した多数のスペクトル線(輝線)が広範囲のスペクトル領域に及ぶ集合体から成る、 準連続スペクトルを生み出します。 この準連続体放射は、アークプラズマ中の多数の化学成分により起ります。 ここで最も重要なのは希土類です。 これらの金属 (例えば、 ジスプロシウム、ツリウム、 ホルミウム) は、ハロゲンの存在によってハロゲン化物を生成します。 これを特殊な処理をすることによってMHGランプに太陽光と極めて類似したスペクトルを与えます。 また、この MHG ランプは輝線の集合体のため、 非常に感度が高いことが分かります。 “正しい出力” を得るための安定した電力制御と正しくデザインされたランプ取付け具が揃って、 初めて、 一定の分光分布を保持し、適切な操作条件が提供されます。、 この光源を使用する場合、ランプの分光特性や影響について詳細な知識を得て、 自然に起るランプ輝度の変化や 人為的な変化に対して注意する必要があります。



メタルハライドランプは、放電ランプの系統群に属します。 これらのランプは、用途により様々な種類、形があります。 たとえ、 それらが全て“昼光”光源として特性化されていたとしても、太陽光シミュレーーションに適しているものは、ほんの僅かな数でしかありません。 このため、“メタルハライドランプ”には、厳しい精度が要求されます。 1960 年代後半に、一般照明の目的に使われるメタルハライドランプのテクノロジーで製作された、高品質のランプが写真光学分野に導入されました。 現在のランプは、高光源効率 (約 100 lm/W)、5500K~6000K の色温度、 (30 kcd/cm2 までの) 輝度、 非発光色の“自然”レンダリング(100)(natural rendering [100] )とほとんど一致した演色性 (95) を提供します。 これらは全て重要な特徴で、 高品質であることを示していますが、 太陽光シミュレーション光源としての条件ではありません。 太陽光シミュレーションシステム用ランプとして必要なことは、主に全スペクトルとの一致、 かつ、均一で安定した照射が条件となります。
メタルハライドランプを太陽光シミュレーションに使用するための要求条件を満足させるには、 メタルハライドランプが、 MHG (Metal Halide Global、 全昼光型メタルハライド) ランプとして製作に成功したように、電気的特性、光学的特性、個々に測定したランプの分光分布の値を注意深くチェックします。ランプは、適切なフィルタ、 光学システム、 供給電力の組合せで、 太陽放射に近似した分光分布を提供します。
メタルハライドランプは高効率であるため、均一な暴露が提供されるように 設計・配置した数台の放射ユニットを備えた大型チャンバ (試験室) で使用するのに適しています。 いくつかのメタルハライドチャンバ (試験室) に関しては、 実に驚くべきものがあります。右図に示すソーラーコンスタント(SolarConstant)のような太陽光シミュレーションシステムは、昼間サイクル (日の出から日没まで) をシミュレートし、システムを試験室の壁と天井に沿って移動できます。

 ソーラーコンスタント ドライブイン 太陽光シミュレーションチャンバ (試験室)

ソーラーコンスタント ドライブイン 太陽光シミュレーションチャンバ (試験室)  


実自動車試験に含まれる項目


  • 材料 (内装材/外装材) の性能
  • はめ合わせ、仕上がり
  • きしみ、がたつき
  • 乗員の快適性 (温度/エアコン)
  • 乗員の安全性 (運転座席/後部座席/側面のエアーバグ性能の老化)
  • 排ガスの評価


MHG ランプを装備したソーラーコンスタント・システムは(例えば、 DIN 75 220 太陽光シミュレーション装置による自動車構成部品の老化試験、IEC 68-2-5 、MIL STD 810、 SFTPのような)多くの試験規格に適合しています。 DIN 75 220 の試験仕様には、 自然太陽光に近似したシミュレーション、 最も過酷な放射照度、 温度、 湿度パラメータによるサイクル、試験条件としては亜熱帯、 及び砂漠地帯のベンチマーク (基準) 気候の自然暴露、と記述されています。 ソーラークライマティックTMのような小型 MHG 暴露チャンバ (試験槽) は小寸法から中間寸法までの構成部品の試験に使用されます。 この装置は、放射照度、 湿度、 試料の周囲温度、 ブラックパネル (ブラックスタンダード) 温度の制御機能を持っています。 また、 この装置は、DIN 75 220 の規定に適合しています。

 紫外線蛍光ランプ装置の湿潤サイクル

ソーラークライマティック 2000
ソーラークライマティック 2000

DIN 75 220試験仕様 


4.カーボンアーク装置



カーボンア-ク装置は、当初ドイツの合成染料の化学者が染色織物に及ぼす光の効果について評価を行うために使用したのが始まりです。アトラス密閉カーボンアーク (ECA)光源を使用したアトラス・カラー・フェードオメータ®(Atlas Color Fade-Ometer®、 染色耐光性試験機) 1号機は、1919年代に導入されました。 これらの装置は対のカーボンロッド (棒) に点火した後、光源として連続的に燃焼させて運転するものです。 カーボンロッドは、光学的フィルタの役割と低酸素状態を作り出す役割のパイレックスTM ガラスグローブで密閉されています。低酸素状態は、カーボンロッドの燃焼速度を適正に保つために必要なものです。 紫外部の分光放射は、 57ページの分光分布グラフに示すように、太陽光にほとんど類似していません。 密閉カーボンアークは、 358nmと386nmをピークとする二つの強力な放射帯があり、これは自然太陽光よりもはるかに強力です。 この光源は 、310nm 以下には放射照度がほとんどないため、単に紫外線放射の短波長を吸収する材料に対しては、太陽放射よりも弱い効果しか期待できません。 しかしながら、密閉カーボンアーク(ECA)暴露は、その強力な放射帯のために、 長波長紫外線部と可視光部を吸収する材料には、 より強力な効果を与えます。
密閉カーボンアーク ・耐候性試験機
 密閉カーボンアーク ・耐候性試験機


オープンフレーム・カーボンアーク 装置の1号機であるコレックス®フィルタ付アトラス・サンシャインカーボンアーク・ウエザオメータ®は 、1930 年代に導入されました。 サンシャイン・カーボン・アークは三対のカーボンロッドを使い、自然な空気流の中で点灯運転されます。 カーボンロッドの燃焼時間は、一日に1セット(3対)で、アークは三対のロッドの内、一番長い一対のロッドを順番に移動して行きます。 通常、 放射エネルギーは、アークの周囲に取付けられた平板状のコレックスフィルタでろ過されます。 サンシャイン・カーボン・アークで作り出された光源は 300nm以下の波長では太陽光よりも多くの紫外線を提供します。 太陽放射と比較すると、 サンシャイン・カーボン・アークは、長波長において 密閉カーボンよりも太陽光に類似しています。 より迅速な試験を行おうと、 フィルタを装着せずに使用し、 屋外暴露との比較を行った場合、 材料によっては安定性ランキング (順位付け) が崩れることがあります。

各種カーボンロッド
各種カーボンロッド
  サンシャイン・カーボン・アーク ・耐候性試験機
サンシャイン・カーボン・アーク ・耐候性試験機

そのため、 材料の相対的な光安定性の評価を行う場合、材料が紫外線の短波長のみを吸収するものであったり、 他の材料は、紫外線の長波長のみを吸収するものであったりしますので、 太陽放射に暴露したサンプルと比較した場合、 カーボンアーク光源に暴露した結果は、ランキングを崩す可能性があります。 サンシャインカーボンアーク・テクノロジーも、紫外線カーボンアーク・テクノロジーも、共に毎日カーボンアークロッドの交換とフィルタ、 又はグローブの清掃が必要となります。 フィルタもグローブも劣化するので、 定期的に交換し、 附着・堆積したカーボンの煤を除去しなければなりません。 カーボンアークを使用した莫大な量の歴史的データや、 今もカーボンアークの使用を規定した多くの試験法が存在しています。これらの限定的分光光源 (密閉カーボンアーク、 及びサンシャイン・カーボン・アーク) に対して適切なウエザリングメカニズムを持っている材料について屋外暴露を行ったところ、 良い相関性が得られたと報告されてきましたが、紫外線蛍光ランプとキセノンアークシステムの出現により、このテクノロジーは、紫外線蛍光ランプとキセノンアークシステムに 大幅に置き換えられました。 ISO 4892-4, プラスチックス - 実験室光源への暴露 - 第 4部 オープンフレームカーボンアークランプ、 ASTM G152, 非金属材料暴露用オープンフレーム・カーボンアーク光源装置、 及び ASTM G153, 非金属材料暴露用密閉カーボンアーク光源装置、がカーボンアーク光源を使用した装置の性能について記述した主要な規格です。

フィルタを通したカーボンアーク光対太陽光の比較


  SPD (分光分布) が自然太陽光とはまるで異なるのに、あえてカーボンアークを使う理由は?
過去 40 年に亘るカーボンアークについてのテクノロジーは、カーボンアークが商業的に利用できるただ一つの、 欠くことのできない人工光源として使われてきた技術です。 その結果、 メーカーは、この光源から、自社の材料性能に関する莫大な量の歴史的な情報を蓄積してきました。 より新しい一定の方式が開発されたとき、 誰もが最初に発する質問は “耐候性の観点からして、 新方式は旧方式のものより優れているか?” というものでありましょう。 比較する方法は、同一光源に暴露することだけです。 また、 今もってカーボンアークの使用を要求している多くの規格及び材料の仕様が記述されています。 たとえ、 自然太陽光のシミュレーションを改善する新しい耐候性試験装置が開発されたとしても、 収集された歴史的データ、 仕様書、 “新方式と旧方式” を比較したいという願望がどこかに残っていて避けられないものです。 そのようなときは、引き続きカーボンアーク装置を使用し、材料の耐久性試験を行ってください。



5.腐食キャビネット



金属下地に対する腐食作用は、必ずしも光源を必要とするものではありませんが、 腐食試験は伝統的に“耐候性試験”として考えられています。 材料の腐食環境に対する耐久性 (耐食性) を試験する屋外暴露試験サイトは世界中のいたるところに見受けられます。 これらのサイトにはNOX、CO2、及び SO2 が、湿気と化合して酸性雨を作り出す環境にある工業地域や、 高レベルの海塩を含む海洋環境にあるものが含まれます。

腐食環境を促進させる装置として腐食キャビネットが開発されました。 腐食試験用として、初期の装置仕様が ASTM B117, 塩水噴霧 (霧) 装置の試験方法 に載っています。 この種の伝統的な試験法では、試料を通常35 ~ 40℃において、塩化ナトリウムのような水溶性化学薬品で作り出される湿度100% の試験条件に暴露します。 この方法は現実的な試験ではなく、 また、 めったに寿命を予測できないことが証明されています。

実際の腐食環境は、毎日 (しかも、 急速に) 変化しているので、 実験室としては腐食を促進させる様々な環境ストレスに試料を暴露させるようになりました。 実験室の技術者は、試料を一つの環境から他の環境 、つまり、腐食用噴霧キャビネット、 乾熱・加熱、 加湿空気、 直接スプレー用シンク等 へ移動するのに貴重な時間を費やしてきました。 腐食装置の新しいテクノロジーは、この要求される環境を一つのキャビネットの中で作り出します。 そうすることで、試料の移動や試料に触れる必要性を著しく減らすことができました。 これらのサイクル腐食試験は、温湿度の可変調整だけでなく、 実際の自然界に存在する他の腐食化学物質の調整も編入されています。

試験条件には次のものが含まれます。

  • 塩霧、 又は化学霧 - 塩水 (又は他の腐食特性のある溶液) が加熱及び加湿された空気により、“飽和 状態”である 95 ~ 100% の相対湿度を作り出すように噴霧。
  • 水霧 - 塩水霧サイクル、 又は化学霧サイクルと同じ飽和サイクル。ただし、 可溶性化学薬品の代わ りに暴露チャンバに凝縮した脱イオン水を噴霧。
  • 乾燥 - 加熱空気が暴露チャンバ内を循環して湿度を下げる。
  • 運転休止時間 - チャンバ内の一切の動作を停止し、 チャンバの周囲環境条件と同一となるまで放置 し、 状態を戻す。
  • 直接スプレー - サンプルに塩水、又は化学溶液を直接スプレー。 この処方は、ホースとノズルを使って低水圧で自動車を清掃する時と類似。
  • 浸漬 - サンプルを、 通常、フォギングサイクルに使われるものと同一濃度のもので、かつ、加熱さ れた塩水、 又は化学溶液に浸漬。
  • ガス注入 - 自然汚染、 又は産業汚染用、一般的にはフォギング現象が起きている期間中に SO2 を 暴露チャンバに注入。
改良型サイクルキャビネット、CCX腐食暴露システム
改良型サイクルキャビネット、CCX腐食暴露システム



SAE J2334, 装飾品の実験室試験 は、サイクル腐食の先進的な規格です。この方法は、アメリカ自動車技術会(Society of Automotive Engineer)、アメリカ鉄鋼協会 (American Iron and Steel Institute)、 及び (アメリカ) 自動車/鋼鉄組合(the Auto/Steel Partnership)によって行われた研究で、 最終使用状態に対して優れた相関性を示しました。 この試験では、重要なパラメータとして長期間の乾燥サイクル中の相対湿度を 50% としていることです。 腐食は湿潤状態の期間だけの場合よりも、 湿潤から乾燥、 乾燥から湿潤への遷移期間中により起りやすいので、 この条件は非常に厳しいものです。


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